I)特定健診・保健指導の導入の経緯
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平成19年度より医療制度構造改革の取り組みとして、新たな健診・保健指導と生活習慣病対策を取り入れ、「医療より予防へ」を合言葉にその第一歩として特定健診・保健指導が考えられ、平成20年度より実施開始された。
この時の目的は下記の様に書かれている。
1)国民皆保険制度を持続可能なものとするために、将来の医療費の伸びを抑える事が重要
2)今回の改革のポイントは以下の3つ
※健診・保健指導に「メタボリック・シンドロームの概念」注1を導入
※糖尿病などの生活習慣病有病者・予備軍の25%削減目標を設定
※医療保険者に健診・保健指導を義務化
当時内臓に脂肪が蓄積すると、いろいろな疾病が発症するとして、これを「メタボリック・シンドローム―内臓脂肪症候による代謝異常」として学会で認められつつあったが、この概念に厚労省は飛びつき、これを導入
※メカニズムを理解すれば、保健指導で予防が可能
※保健指導の対象者が明確になる
―内臓脂肪の改善で予防できる対象を絞り込むことが出来る
―リスクの数に応じて保健指導に優先順位をつけることが出来る
※腹囲という分かりやすい基準により、生活習慣の改善による成果を自分で確認評価できる。
という事で、「国を挙げての壮大な予防対策」を打ち出したのが特定健診である。
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II)実施に当たり下記の事が決められている
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医療保険者に健診・保健指導を義務化
※40歳から74歳の被保険者・被扶養者が対象
―40歳に未満、75歳以上は努力義務(75歳以上は後期高齢者制度で対応)
―健診未受診者を把握し、発症予防に利用
※健診・保健指導データー管理
―レセプトと突合することにより医療費との関係を分析
―治療中断者、治療未受診者を把握し、重症化防止
※特定健診など計画の策定
―健診実施率・保健指導実施率、メタボリックシンドローム該当者・予備軍の減少率を明記
―後期高齢者医療制度への支援金の加算・減算に反映
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III)平成24年度に判定する:実施率の目標が定められている |
平成24年度以後の健診実施率が参酌標準の半分の水準に達しない場合は、3項目とも未達成扱いとする
1)特定健診の実施率(平成24年度)
単一健保・共済80%
組合健保・政管(船員)健保=現協会けんぽ 70%
国保組合70%
市町村国保65%
→平成27年度にすべて80%にする
なお労働保険法での健診実施を義務づけられている事業所はこちらを優先
2)特定保健指導の実施率
24年度45%→27年度60%
3)メタボリックシンドロームの該当者及び予備軍の減少率
24年度10%減(平成20年度比)→25%減少
達成率に達しない場合は後期高齢者医療制度の支援金へ反映
(改善した時は10%減算:悪化した時は10%加算金が増える―3分の1のルールがある事に注意)
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IV)平成23年度の実施にあたり過去3年度の問題点 |
※いよいよ本年度の実施率で保健者に対するペナルテイーが予測されることになる:高齢者医療 保険制度(これも制度そのものがどうなるか不明)への拠出金の加算・減算の対象者(保険者)が絞り込まれてくる。
※ほとんどの市町村国保は30%程度の受診率―来年度にどの市町村が支援金の支出を強制されるのか、解ってくる。
※女性の腹囲の90pはおかしい。
※LDL−コレステロールの直接法は約7種類あり、すべて正常値が異なるのでこれをどう調節するか。
※HbA1cは基準値が糖尿病学会で変わった(従来の日本の基準:JDS基準と新しく国際基準値へ)が、特定健診が終わるまでは現状のままで行く予定。
※本来は医療費抑制のために「医療より予防へ」を合言葉に膨大な経費が使われているが、結果的に予想程効果が出ていない。ある意味で膨大な無駄ずかいに成っている
※但し生かし方(個人情報保護を配慮しながら)によれば膨大な日本人のDATAベースが出来たともいえる
※内臓脂肪が貯まる事により分泌される生理活性物質が、必ずしも悪とは限らず、善い働きをするアディポネクチンやレプチンさらにVaspin・Sfrp5など新しい内臓脂肪からの分泌物も見つかって来ており、最初に飛びついた内臓脂肪蓄積は悪だという考えがかなり変わって来ている事。
※必ずしも腹囲がそれほど太くなくても、特定健診でいう基準値を超えたり、予備軍にあたる人たちが3割程度ある。
※メタボリック症候群は内臓脂肪を表現する腹囲だけでなく、結果的にリスク(高血圧・糖尿病・脂質異常症)を幾つ持つかという、重積が問題になるがこれらの人たちをどう扱う。
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注1:メタボリック症候群―内臓脂肪症候群(通称メタボ)はなぜ悪い? |
2000年より40歳〜74歳の全国民にメタボを対象にした特定検診が義務化されました。高血圧・糖尿病・高脂血症に肥満が重なった人は心血管リスクが健康な人に比べて36倍に跳ね上がり死の四重奏といわれます。それぞれがたとえ軽度でも、これらのリスクが重なり2項目以上あると6倍程度に為る事も判って来ました。
内臓の脂肪細胞からは、アデイポサイトカインという生理活性物質が分泌されていて、不思議なことに、これらは体にとって良い作用と、悪い作用をもたらす物質があり、脂肪を溜め込んで肥大化した脂肪細胞からはより悪い物質、小型化した脂肪細胞からは良い物質が出る事が解って来ました。
また脂肪毒性として溜まった遊離脂肪酸等が代謝障害・酸化ストレスを発生し・また血中のマクロファージが浸潤し内臓の自然免疫系と共に炎症を起こし、これらが全身の動脈硬化を起こすと言われます。生活習慣の乱れがこの内臓蓄積肥満と共にインスリン抵抗性(インスリンが出ているのに充分に働かない状態)を起こします。 |
X)特定健診判定値:保健指導判定値:受診勧奨判定値 |
![](tokutei1.jpg)
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Y)具体的なDATAの例 |
![](tokutei21.jpg) |